物を食べると喉が詰まる。なので、片手にお茶が欠かせない。ひと口ふた口食べて、飲み込んでは、お茶を飲んで流し落とす。いつのまにか、それが当たり前になっていた。
そして、段々酷くなって来た。お茶で流そうとすると、止まったり、それをググっと力を入れて飲み込むと、かなり胸のあたりが痛くなったりする。
流石にこれはヤバイ、と主治医に相談。レントゲンを撮り、食道を造影検査、結果、リンパ節と腫瘍に押されて、食道が狭くなっている、とのこと。
レントゲンを見ると、1部分だけ、グッと細くなっているのがわかった。もう見て、すぐにわかるような状態。
放射線治療へ
主治医と相談した結果、放射線治療を考えることになった。食道を押す腫瘍に放射線をあてて、通りをよくする。ただ、出来るかどうか、まずは診察を受けることになった。
これには、さりげなく、小さなボクの覚悟があった。
主治医との話で放射線治療の話が出た時は、うなづき、通りが良くなるならやります、とすぐに返事をした。でも、心の中では、複雑な気持ちを抱いていた。僕には夢があったからだ。
肺がんを寛解する夢
僕の夢は、専門の人から見たら、笑ってしまうことだと思う。
抗がん剤が効いて、腫瘍が無くなったり、うんと小さくなって、放射線や、手術で腫瘍が全部取れます。寛解します、という、夢。
そんな夢。肺がんステージ4の僕にしたら、本当に遠い、実現不可能な、夢。
僕の胸の奥に、大切にしまってある、夢だ。そんなこと、本当にあり得ないのはわかっているから、そっとしまってある。
だから今回、喉の詰まりで放射線を使うとなると、一瞬、立ち止まる自分がいる。
放射線は同じところに何度もあてられるものじゃないから、僕の夢は叶わなくなる。今回喉に放射線をあてたけど、次は別のところにあてよう、とはならない。でも、喉の通りは良くなるかも知れないから、キチンとそこは対処する。
そして、僕の夢は、無くなる。捨てることになる。諦める、が表現としてはいいかな?
ちゃんとわかっている。適切な処置をする。
夢が叶わないのだって、ちゃんとわかっている。だけどね、ちょっとだけ、寂しい。
いやいや、喉の通りが良くなれば、ご飯が食べられる。シンプルだけど、難しいことでもある。口からモノが食べられる幸せを、キチンと噛みしめようと思う。
夢は形を変えて、実現する。そして、まだまだ、ね。長く笑えるように。
楽しく、笑えるように。
